2017年は「仮想通貨元年」と呼ばれるほど、日本国内における仮想通貨に対する関心が一気に高まった年でした。
その急激な価値変動が投機対象として注目された一方で、ブロックチェーン技術を始めとした新技術の活用により迅速な決済と高度なセキュリティを実現した、「新次代の通貨」としての側面にも光が当てられました。
しかし、ここであえて「仮想通貨の必要性」について今一度考えてみて下さい。
仮に「現金を持ち歩かない、スピーディーな決済手段」が必要ならば、電子マネーの仕組みを利用すれば済む話ではないでしょうか?
電子マネーによる決済は既に社会の至る所に浸透している為、日常生活においてごく普通に利用できます。
「スピーディーな決済手段」であればETCやおサイフケータイ、そして中国企業のアリペイ等が提供しているQR決済系の電子マネーが十分にその役割を果たしていると言えます。
そこで本記事では、「仮想通貨の必要性」について仮想通貨と電子マネーの性質を比較しながら考えていきたいと思います。
その仕組みが社会に深く浸透している電子マネーと、分散型ブロックチェーンという全く新しいシステムを備えた仮想通貨。
「決済手段」として生き残るのは、果たしてどちらなのでしょうか?
まず始めに、中国における大手電子マネー決済サービス「アリペイ」を中心とした様々な電子マネーサービスについてご紹介します。
アリペイに関する関連記事はこちらを参考にしてください。
目次
電子マネー決済サービス[アリペイ]とは?
「支付宝」(アリペイ)とは、中国の大手Eコマース企業アリババが提供する、世界最大規模の電子マネー決済サービスのことです。
アリペイに関する基本情報は、以下の表の通りです。
運営元 | アント・フィナンシャル(アリババグループ子会社) |
---|---|
利用者数 | 約5億2,000万人(2018年1月時点) |
サービス開始日 | 2004年12月 |
国内業界シェア | 1位(約54%) |
日本における加盟店舗数 | 4万店以上(2018年現在) |
今や中国国内では、アリペイの浸透により日本とは比べ物にならないほどキャッシュレス化が進行しています。
アリペイこれほど高い人気を誇る理由とは、一体何なのでしょうか?
サービス面におけるアリペイの特徴と、アリペイを利用することでそのユーザーと導入店舗それぞれが得られるメリットについてご紹介します。
アリペイの特徴
アリペイの最大の特徴は、提供しているサービス機能の豊富さにあります。
アリペイで利用可能な各機能について、順番に見てみましょう。
- あらゆるシーンに対応した決済サービス
- アリペイの基本となる電子マネー決済サービスは、ネット通販の商品代金以外にも電気代やガス代、更にはタクシー代や航空チケット代に至るまで様々なサービス代金の支払いに対応しています。
日常生活で必要なサービス代金は全て、アリペイによる決済で支払えると言われるほどです。アリペイ加盟店であれば、支払い金額を入力した携帯を端末に近づけるだけで決済を行うことが出来ます。 - 送金・割り勘支払い機能の実装
- アリペイでは携帯電話番号が口座番号の代わりになる様に初期設定がされているので、相手の電話番号さえ知っていれば即座に振り込みを行うことも可能です。また、アリペイは割り勘(中国では「AA制」と呼ぶ)での支払いにも対応しています。
まず、支払い金額を設定することで相手に請求が届きます。
そして相手がその請求を承認すれば、支払いが完了するというワケです。 - 国内銀行口座からの高速チャージ機能
- 中国国内の銀行口座を取得している場合、その口座からアリペイのアカウントに対してリアルタイムでお金をチャージ(若しくはアカウントから口座への返金)することが出来ます。
以上の様に、基本機能である決済サービスを使用可能な場面が多いことに加え、利用者の使い勝手を考慮した便利機能も充実している点がアリペイの特徴と言えます。
アリペイを利用することで即座に決済が行え、しかも現金がかさばらない。
こうした理由から中国では、「現金お断り」のお店も増えています。
また、アリペイによる高速決済機能を活用した「シェア自転車サービス」も大変人気があります。
アリペイのユーザーメリット
アリペイを利用する側のメリットとしてまず挙げられるのが、アリペイ1つで日常生活を送る上で必要なあらゆる支払いを行える点です。加えて、これらの決済手数料が無料である点もアリペイユーザーにとって大きなメリットと言えるでしょう。
また、送金機能や割り勘を実装することで小銭や紙幣を必要とする面倒なやり取りを省略出来ることもアリペイユーザーにとってありがたい点ですね。
アリペイの店舗導入メリット
また、店舗側にとってもアリペイ決済を導入するメリットが存在します。
まず、この決済方法は店舗側が用意した決済用のQRコードを店に張り出すだけで導入が完了します。
すなわち、アリペイによる決済を導入する上で初期投資費用は殆ど発生しません。
更に、アリペイを利用した決済はクレジットカード決済等に比べて店舗側の負担費用を抑えることが出来るのです。
日本のクレジットカード決済の場合、手数料はおおよそ1~3%という所ですが、アリペイにおけるQRコードスキャン型の決済であれば手数料は発生しません。
こんなところにも!?アリペイの利用事例まとめ
アリペイによる決済サービスは、QRコードの読み取りで完了するというそのお手軽さも相まって中国国内の様々な場面で利用されています。
例えば、焼き芋販売の屋台には店主の口座を示すQRコードが掲げられていますし、自動販売機の多くがアリペイでの決済に対応済みです。
観光地の土産物屋では売り物とQRコードを持って店員が商品を勧めてきます。
「この口座にお金を振り込んでくれ」と、QRコードを見せてくる物乞いの人までいるほどです。
この様に中国では急激なキャッシュレス化が進行する一方で、中国国内に口座を持たず現金支払いしか出来ない人達には生活しにくい環境となっていると言えるでしょう。
そのほかの電子マネー決済サービス
ここで、アリペイ以外の電子マネー決済サービスについても簡単にご紹介しておきます。
中国の電子決済サービスWeChat
WeChat(微信)とは、中国の大手IT企業テンセントが提供するメッセンジャーアプリです。
日本で言う所の「LINE(ライン)」の様なものと考えて下さい。
そして、LINEが「LINE Pay」というチャット上の送金機能を備えているのと同様に、WeChatにも「WeChat Pay」という送金機能が備わっています。
この「WeChat Pay」は「アリペイ」と並び、中国における2大電子マネー決済サービスと位置付けられています。
QRコードの表示・読み取りによる決済機能や中国国内の銀行口座とリンクさせた残高チャージ機能など、「WeChat Pay」には「アリペイ」との共通点が多いのも特徴です。
スウェーデンの電子決済サービスSwish
次にご紹介するのは、スウェーデンにおける電子マネー決済サービス「Swish」です。
「Swish」はスウェーデンの民間銀行が共同で立ち上げたシステムであり、アリペイと同様に金額と送信先の電話番号することで送金を行うことが出来ます。
このSwishは、「スウェーデン国民の個人情報がパーソナルナンバー(日本におけるマイナンバーの様なもの)と関連付けて管理されている為、一つの個人情報から他のあらゆる個人情報を引き出せる」というシステムを利用したサービスと言えます。
ちなみにスウェーデンやデンマークといった北欧諸国では「脱現金社会」を国策として推進した結果、中国以上のキャッシュレス化を実現しました。こうした環境が、Swishの浸透を一層後押ししているのです。
日本におけるキャッシュレスの現状
この様に、世界各国でキャッシュレス化の流れが進行しているのが現状です。
では、日本におけるキャッシュレス化はどの様な形で進行しているのでしょうか?
日本における主要な電子マネー決済サービスについて、以下でジャンル毎にまとめておきます。
交通機関 | ICOCA・SUICA(JR)、パスも(私鉄・地下鉄) |
---|---|
ショッピング | ナナコ(セブン&アイグループ)、WAON(イオングループ)、おサイフケータイ、楽天Edy(楽天) |
また、アリペイの運営元であるアント・フィナンシャルは2018年中に「アリペイ日本版」の提供を目的として、日本との合弁会社設立を検討しています。
日本側としては中国人観光客がより買い物をしやすい環境を整えることで、インバウンド消費を促す狙いがある様です。
仮想通貨vs電子マネーどっちが勝つの?
さて、ここまで様々な電子マネー決済サービスについてご紹介してきました。
これらの情報を考慮した上で、改めて「仮想通貨は必要なのか?」という問いについて考えてみましょう。
筆者個人としては、現状生活する上で仮想通貨は「必ずしも必要ではない」と考えています。
こう考える理由は主に2つ。1つはキャッシュレス化を推進する役目は電子マネーが十分に果たしているから。
もう1つは、電子マネー決済という制度が現時点で社会にある程度浸透しているからです。
しかし、仮想通貨が電子マネーにはない長所を備えていることも事実です。
仮想通貨は電子マネーと違い、銀行口座を保有しているかどうかに関わらず世界中で使用することが出来ます。
今後仮想通貨に関する各国での法整備が進むことで、仮想通貨が電子マネーに代わる決済手段となる可能性も十分にあると言えるでしょう。
そもそも未だに現金を使ってしまう理由
世界中で脱現金化の流れが加速する中で、「日本は現金払い主義から抜け出せていない」と言われています。
国内で様々な電子マネー決済サービスが実装されているにも関わらず、日本人が未だに現金を使ってしまうのはなぜなのでしょうか?
その理由は、町の至る所に設置されているATMの存在にあります。
すなわち、日本国内では時間と場所を問わず自由に現金を引き出せる環境が整いすぎている為に、電子マネー決済に頼る必要性が薄いのです。
また、銀行にとってATM手数料は主要な営業利益でもあります。
日本では全国のATMを撤去することで銀行経営が悪化することを恐れるあまり、急激なキャッシュレス化を推進出来ずにいるのです。
手数料について
では、手数料が安いのは電子マネーと仮想通貨のどちらなのでしょうか?
本記事でもご紹介した通り、アリペイやWeChat Payは利用手数料がかかりません。
また、Yahoo!マネーでは個人間送金も手数料無しに行えます。
この様に、電子マネーを利用する上では手数料がかからないケースが多いです。
一方、仮想通貨の場合は利用する取引所が国内のものか海外のものかによって、負担する手数料が変わります。
基本的には国内取引所よりも、海外の取引所を利用する方が手数料が安いです。
代表的な仮想通貨取引所における取引手数料は、以下の通りです。
取引所 | 所在地 | 送金手数料 |
---|---|---|
Binance | 海外 | 0.05~0.1% |
Bittrex | 海外 | 0.25% |
Bitflyer | 国内 | 0.1% |
マイクロペイメントについて
マイクロペイメントとは、数円~数百円の商品を購入する為の電子決済方法のことです。
従来のクレジットカードによる商品購入の際は、決済手数料として数百円がかかる為に決済手数料が商品価格を超えてしまうマイクロペイメントの実装は困難とされていました。
しかし、電子マネー決済では決済手数料を非常に少額(または無料)に抑える事が可能となり、新聞記事の記事単位での購入や音楽の局単位でのダウンロードといった、デジタルコンテンツの小規模販売が可能となったのです。
こうした少額決済を可能とした点も、電子マネー決済の強みと言えます。
分散型である強み
対して、仮想通貨の強みはその「分散型」のシステムにあると言えます。
法定通貨が「国家」という権力を持った存在によりその価値を保証されているのとは異なり、仮想通貨はそれを所持する者達全員の手によって価値を担保されています。
その為、特定の個人・組織により意向を受けにくい制度であると言えるでしょう。
また、分散型ブロックチェーン技術によりハッキングやデータの改ざんに対して強い耐性を備えているのも、仮想通貨が備える長所の1つです。
中国がどう動くかがポイント
さて、ここまで仮想通貨と電子マネー双方の特徴を比較して来ました。
本記事の内容をまとめると、「キャッシュレス化の推進」という点で両者の役割に共通点が見られるものの、現状では既に社会に深く浸透している電子マネーの方が使い勝手が良い、ということでした。
ただし、これはあくまでも現状における結論です。
今後仮想通貨に対する各国の考え方次第では、仮想通貨による決済サービスが急速に広がっていく可能性も十分にあります。
そして、その様な世界的な流れを考える上でポイントになってくるのが中国政府の対応です。
2017年の夏、中国政府は悪質な仮想通貨業者を市場から排除する目的もかねて、仮想通貨取引に関する規制を行いました。
今後の中国政府の対応次第では、仮想通貨業界がより厳しい規制にさらされる可能性もあります。
果たして仮想通貨はこうした規制と戦い、電子マネーに取って代わる新たな決済手段となり得るのか?今後の動きに注目しましょう。
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